大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成11年(ネ)4466号 判決

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  別紙一の離職票様式書面の<8>ないし<12>欄に記載すべき事実が右各欄に記載されたとおりであることの確認を求める訴えを却下する。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金三三万五六五六円及び内金二六万四三八四円に対する平成一〇年六月二七日から、内金七万一二七二円に対する同年七月一六日から各支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

3  被控訴人は、控訴人に対し、金二九万五六五六円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、第一、二審を通じて、これを二分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

三  この判決は、一2につき、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、一二六万六三二四円及びこれに対する平成一〇年六月二七日から支払済みまで年一四・六パーセントの割合による金員を支払え。

3  別紙一の離職票様式書面の<8>ないし<12>欄に記載すべき事実が右各欄に記載されたとおりであることを確認する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

5  2項につき、仮執行の宣言

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、控訴人の負担とする。

第二事案の概要等

一  請求並びに原判決及び本判決の判断の概要

1  本件の原審における控訴人の請求は、平成一〇年一月二四日から同年六月二六日までの間(以下「本件雇用期間」という。また、以下の月日は、特記しない限りすべて同年中である。)鉄骨組立業を営む被控訴人に鉄骨建方職人として雇用され(以下、この雇用契約を「本件雇用契約」という。)、ビル建築現場で鉄骨組立作業に従事するとともに被控訴人社内等において洗車等の作業にも従事し(以下、鉄骨組立作業を「建方作業」、洗車等の作業を「雑役作業」ともいう。)、右同日をもって披控訴人を退職し、翌二七日以降被控訴人会社に出社せず、右各作業に従事しなくなった控訴人が、右退職は解雇であるとして、(一)本件雇用契約に基づき、被控訴人に対し、本件雇用期間中の(1) 未払賃金二八万六五〇〇円(建方作業に対する未払賃金一二万九〇〇〇円、雑役作業に対する未払賃金一五万七五〇〇円(雑役作業が認められないときは、予備的に、右同額の休業手当))、(2) 解雇予告手当二九万六一〇〇円(解雇の事実が認められないときは、予備的に、民法六二八条ただし書又は七〇九条に基づく右同額の損害賠償)、(3) 休業手当三二万八七四六円(建方作業にも雑役作業にも従事しなかった日における休業手当)、(4) 割増賃金二万三二五〇円(休日労働に対する割増賃金一万五七五〇円、深夜労働に対する割増賃金七五〇〇円)及び(5) 付加金六四万八〇九六円(解雇予告手当、休業手当及び割増賃金に対する付加金)の合計一五八万二六九二円並びにこれに対する本件雇用契約終了の日の翌日である同月二七日から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律(昭和五一年法律第三四号)六条一項に基づく年一四・六パーセントの割合による遅延損害金の支払、(二)控訴人の雇用保険受給のため必要であるとして、(1) 別紙一の離職票様式書面の<8>ないし<12>欄に記載すべき事実が右各欄に記載されたとおりであること及び(2) 控訴人の退職が被控訴人による一方的な解雇によるものであることの各確認を求めたものである。

これに対し、原判決は、右(二)の確認請求については、確認の利益がなく不適法な訴えであるとしてこれを却下し、右(一)の給付請求については、雑役作業に対する未払賃金三万一五〇〇円及びこれに対する本件雇用契約による賃金の最終支払日(毎月末締め翌月一五日払)の翌日である七月一六日から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律六条一項に基づく年一四・六パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものとして認容し、その余は理由がないものとして棄却した。

2  控訴人は、当審において、請求を一部減縮し、(一)(1) 未払賃金二六万六五〇〇円(建方作業に対する未払賃金一二万九〇〇〇円、雑役作業に対する未払賃金一三万七五〇〇円(雑役作業が認められないときは、予備的に、右同額の休業手当))、(2) 解雇予告手当二九万六一〇〇円(解雇の事実が認められないときは、予備的に、民法六二八条ただし書又は七〇九条に基づく右同額の損害賠償)、(3) 休業手当一八万〇五六二円、(4) 割増賃金二万三二五〇円及び(5) 付加金四九万九九一二円の合計一二六万六三二四円並びにこれに対する六月二七日から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律六条一項に基づく年一四・六パーセントの割合による遅延損害金の支払、(二)1(二)(1) と同旨の確認を求める限度で本件控訴を申し立てた。

これに対し、本判決は、右(二)の確認請求については、原判決と同様不適法として訴えを却下し、右(一)の給付請求については、雑役作業に対する未払賃金四万円、休業手当二七万六四五六円及び割増賃金一万九二〇〇円(休日労働に対する割増賃金一万四七〇〇円、深夜労働に対する割増賃金四五〇〇円)の合計三三万五六五六円並びに右のうち三月分ないし五月分の雑役作業に対する未払賃金三万円、二月分ないし五月分の休業手当二一万五一八四円及び割増賃金一万九二〇〇円の合計二六万四三八四円に対する本件雇用契約終了の日の翌日である六月二七日から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律六条一項に基づく年一四・六パーセントの割合による遅延損害金の、六月分の雑役作業に対する未払賃金一万円及び休業手当六万一二七二円の合計七万一二七二円に対する同月分の賃金支払日の翌日である七月一六日から支払済みまで右同割合による遅延損害金の、付加金二九万五六五六円(休業手当及び割増賃金の合計額と同額)及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるものとしてこれを認容し、その余は理由がないものとしてこれを棄却するものである。

二  基本的な事実(証拠を摘示しない事実は、争いがないか又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。)

1  被控訴人は、鋼構造物工事の請負及び施工等を目的とし、ビルの建築現場において従業員である鉄骨建方職人(以下「建方職人」ともいう。)を使用して鉄骨建方(いわゆる鳶工事)業務を行う会社であり、取締役には代表者金澤司の父である金澤敏高が就任するなど、金澤一家の同族会社である。

2  控訴人は、一月二四日、本件雇用契約により、建方職人として被控訴人に雇い入れられ、同日から六月二六日までの本件雇用期間中、被控訴人の指揮下で一都二県の建築現場において建方作業に従事したほか、肩書住所の被控訴人会社に出社して「家の仕事」と称する雑役作業に従事したが、右同日、被控訴人を退職した。右同日は、建方作業がなく、早朝から被控訴人会社内で建方職人仲間が飲酒を始めており、控訴人もこれに加わっていたが、その途中、その場をたって帰宅し、以後、被控訴人に解雇されたものとして出社せず、建方作業にも雑役作業にも従事していない。

3  被控訴人では、代表者の金澤司及びその父の金澤敏高も建方職人であり(金澤司は営業事務も担当する。)、平成九年当時別に建方職人として桜井延治(以下「桜井」という。)、八木某(以下「八木」という。)及び渕田某を雇用していたが、一月に渕田某が退職し、二月に建方職人として新たに菊地某(以下「菊地」という。)を雇い入れたため、本件雇用期間中被控訴人には控訴人を含め六名が建方職人として稼働していたことになる。

4  控訴人は、本件雇用期間中、被控訴人会社所在の埼玉県内のみならず東京都内及び神奈川県内のビルの建築現場において建方作業に従事した。控訴人が建方作業に従事した日及びその現場は、別紙二「出勤の記録」(以下「出勤記録表」という。)に地名等に丸印を付した記載のとおりであり(「池袋」、「横浜」などと記載して丸印を付してあるもの。ただし、右のほか、二月一四日(土曜日)には麻布、三月二二日(日曜日)には川越の現場でそれぞれ建方作業に従事した。また、「栃木」とあるのは宇都宮市の現場、「川里」は行田市の現場、「法政」は小金井市の法政大学関係の現場である。)、各月の合計作業従事日数は、一月が七日間、二月が一八日間、三月が一四日間、四月が一〇日間、五月が一三日間及び六月が一一日間である。このうち、一月二四日(雇入れ日)及び同月二五日は、いずれも午後一一時から翌朝午前五時半までに及ぶ深夜労働であった(右両日は昼間の作業はなかった。)。(右のうち、各深夜労働並びに二月一四日及び三月二二日の作業従事については、乙二の1ないし7、四、控訴人、被控訴人代表者)

5  控訴人は、三月以降において、建方作業のない日でも出勤記録表に「洗車」、「ワイヤー」、「雑役」、「コピー」、「ミーティング」、「掃除」、「運転」及び「集金」と記載のある日(控訴人が雑役作業に従事したと主張する日)には被控訴人会社に出社し(三月が四日間、四月が七日間、五月が六日間及び六月が三日間、合計二〇日間。控訴人は、五月二四日(日曜日。同表に「待期」と記載されている日)にも出社した旨主張するが、後記認定のとおり、日曜日は本来法定休日であったこと、その前後の建方作業の工程及び作業現場の相違、同月二二日(金曜日)には何の作業にも従事していないこと及び被控訴人の出勤簿(乙二の5)には五月二四日は「(雨)」と記載されていること等からすると、右同日に出社していたと認めることはできない。)、そのうち、三月一〇日には自動車(被控訴人の自動車で控訴人が使用するもの。以下同じ。)の洗車、同月二三日及び同月二四日にはワイヤーのヘビ口作り(建方作業用のワイヤーを結ってその途中に輪を作ること)、四月二〇日には自動車の洗車、同月二二日はワイヤーのヘビ口作り、同月二四日にはコピー取り等(近くのコンビニエンスストアーで三回に分けて建方作業用書類のコピーを五部取り、ファイルを買ってきて綴じ、宅急便で発送した。)、五月二三日には自動車運転(取引先と打合せ等をする金澤司を高田馬場及び神田まで搬送)、同月二八日には金澤敏高の集金回りに同行、同月二九日及び同月三〇日には自動車の洗車、六月一七日には作業段取り打合せ・自動車の洗車、同月二三日には自動車運転(自動車を運転して関越道川越ランプに金澤敏高を迎えに行く。)の雑役作業に従事した。右のうち、三月一〇日の洗車、同月二三日のワイヤーのヘビ口作り、四月二〇日の洗車、同月二二日のワイヤーのヘビ口作り及び六月一七日の洗車等については、別紙三「原告の勤務状況」(以下「勤務状況表」という。)に記載のとおり、被控訴人も「家の仕事」として控訴人の作業に賃金を支払うべき雑役作業であることを認めている。(乙二の6、四、被控訴人代表者、控訴人、弁論の全趣旨)

6  控訴人は、出勤記録表の土曜日、日曜日及び祝祭日のうち何の記載もない日(ただし、二月一四日及び三月二二日を除く。)及び記載のある日のうち五月二四日並びに月曜日から金曜日までに「休」と記載のある日は、被控訴人会社に出社せず、建方作業や雑役作業にも従事していない。

7  被控訴人では、従業員である建方職人に対する賃金(日給)は、技量が一人前と認められる建方職人は一日一万五〇〇〇円、それに達していない見習い建方職人は一日一万円とされ(これは業界の相場である。)、毎月末締めで翌月一五日に前月の建方作業日数に技量別に応じた右金額を乗じたものが賃金として支払われることになっており(乙四、控訴人、被控訴人代表者、弁論の全趣旨)、控訴人と被控訴人は、雇入れに際し、控訴人の一日当たりの賃金を一人前の建方職人としての賃金額である一万五〇〇〇円(以下「当初賃金」という。)と合意した。そして、一月分及び二月分は、各右同額が支給されたが、三月分は一万四〇〇〇円、四月分は一万三〇〇〇円、五月分及び六月分は各一万一〇〇〇円に減額されて支給された(以下、右賃金の減額支給を「本件減額支給」という。)。しかし、控訴人は、本件雇用期間中、本件減額支給の事実を知っていたが、これに対して特に異議を述べたことはなかった。

8  被控訴人が控訴人に対して支給した建方作業及び雑役作業に対する賃金は、以下のとおりである(基本給とは建方作業に対する賃金、家の仕事とは雑役作業に対する賃金(一日五〇〇〇円)である。乙二の5、三の1ないし6)。

(一) 一月分 一一万一五一〇円(基本給(七日分)一〇万五〇〇〇円+交通費六五一〇円)

(二) 二月分 二九万円(基本給(一八日分)二七万円+交通費二万円。ただし、特別減税一万四二七〇円を除く。)

(三) 三月分 二二万六〇〇〇円(基本給(一四日分)一九万六〇〇〇円+家の仕事(二日分)一万円+交通費二万円。ただし、特別減税三七三〇円を除く。)

(四) 四月分 一六万円(基本給(一〇日分)一三万円+家の仕事(二日分)一万円+交通費二万円)

(五) 五月分 一五万二〇〇〇円(基本給(一二日分)一三万二〇〇〇円+交通費二万円。ただし、建方作業従事日数は一三日間で、基本給が一日分不足しており、右不足額は翌月に支払われた。)

(六) 六月分 一六万三〇〇〇円(基本給(一三日分)一四万三〇〇〇円+交通費二万円。ただし、建方作業従事日数は一一日間であるが、基本給は同月分として一二日分のほか、五月分の未払の一日分を加えて一三日分となっている。)

三  争点

1  未払賃金支払義務の有無及びその金額

(一) 建方作業に対する未払賃金

(控訴人の主張)

本件雇用契約では、建方作業に対する賃金を日給一万五〇〇〇円と合意したものであり、控訴人は、本件減額支給を承諾したことはない。また、本件減額支給は、不景気による減収と金澤敏高及び桜井の控訴人に対するいじめがその目的・動機となっている違法不当なものである。控訴人が建方作業に従事した日及びその現場は、出勤記録表に記載のとおり(「池袋」、「横浜」等と記載して丸印を付したもの)である。したがって、被控訴人は、控訴人に対し、当初賃金と減額後の前記各現実支給額とのそれぞれ差額である三月分は一三日間で一万三〇〇〇円、四月分は一〇日間で二万円、五月分は一三日間で五万二〇〇〇円及び六月分は一一日間で四万四〇〇〇円の合計一二万九〇〇〇円の支払義務がある。

(被控訴人の主張)

当初賃金は、控訴人が一人前の建方職人としての技量を有することを前提として合意した金額であったが、雇入れ後早期に控訴人の技量が未熟であることが判明し、技量が一向に向上しないため(そのため、被控訴人は菊地を新たに雇い入れた。)、被控訴人は、二月下旬ころ、控訴人に対し、三月分以降は見習い建方職人としての賃金を支払う旨を告げ、控訴人も、これを承諾したので、右合意(以下「本件減額合意」という。)に基づき、本件減額支給を行ったものであり、その際、賃金を一挙に五〇〇〇円も下げることは控訴人に気の毒であることを考慮して、これを漸減させていったものであり、控訴人が主張するような目的・動機によるものではない。なお、控訴人が建方作業に従事した日及びその現場は、勤務状況表に記載のとおり(「東池袋」、「横浜」等の地名が記載されたもの及び「よその組の応援」と記載されたもの)である。

(二) 雑役作業に対する未払賃金

(控訴人の主張)

控訴人は、三月以降、被控訴人に命じられて建方作業のない日(前記「洗車」、「ワイヤー」、「雑役」、「コピー」、「運転」等と記載された日)にも出勤記録表のとおり出社し、それぞれ同表に記載された雑役作業に従事した。雑役作業に対する賃金は、両者間で合意されていなかったが、乙四(被控訴人代表者の陳述書)では「家の仕事」に対しては半日分の日当を支払うと述べていることから、建方作業に対する当初賃金一万五〇〇〇円の二分の一相当の七五〇〇円である。したがって、被控訴人は、控訴人の合計二一日間の雑役作業に対する賃金として合計一五万七五〇〇円を支払うべきところ、被控訴人は、そのうち二万円を支払済みであるから、残額一三万七五〇〇円の支払義務がある。

仮に控訴人の雑役作業の事実が認められないとしても、本件の場合、控訴人には日給制で賃金が支給されていたのであるから、被控訴人は、控訴人に対し、労働基準法二六条により、休業手当として右同額の支払義務がある。

(被控訴人の主張)

控訴人が雑役作業と主張するような作業は、職場で気持ちよく仕事をするために必要なごく簡単な作業であり、しかも、控訴人は、被控訴人が定期券を渡していたこともあって、後記のとおり、建方作業ができず休日とした日にも毎日のように出社し、その機会に右作業をしていたにすぎず、これにより、控訴人に賃金請求権が発生する余地のないものである。それでも、被控訴人は、勤務状況表に記載のとおり(三月一〇日、同月二三日、四月二〇日、同月二二日、六月一日、同月四日及び同月一七日の七日間)、一定の場合には控訴人の雑役作業を「家の仕事」として相当額の賃金を支払っており、被控訴人には雑役作業に対する未払賃金支払義務はない。

2  解雇予告手当支払義務の有無

(控訴人の主張)

六月二六日、被控訴人は、控訴人を解雇した。右は、即時解雇であるから、労働基準法二〇条一項に基づき解雇予告手当二九万六一〇〇円の支払義務がある。仮に被控訴人に解雇予告手当の支払義務が認められないとしても、本件の事情に照らして、控訴人が被控訴人を退職したことにはやむを得ない事情があり、また、被控訴人は控訴人をして退職を余儀なくさせたというべきであるから、被控訴人は、控訴人に対し、民法六二八条ただし書又は七〇九条により、右同額の損害賠償義務がある。

控訴人が右本件の事情として主張するところは、原判決一五頁六行目から同一七頁七行目までに記載のとおりであるから、これをここに引用する。

(被控訴人の主張)

被控訴人は、控訴人を解雇したことはなく、控訴人に被控訴人を退職するようにし向けたこともない。

控訴人の退職に至るまでの事情は、原判決一八頁八行目から同二〇頁一行目までに記載のとおりであるから、これをここに引用する。

3  休業手当支払義務の有無及びその金額

(控訴人の主張)

控訴人は、出勤記録表に「休」と記載された日に建方作業に従事せず休業した。本件雇用契約の締結に当たり、被控訴人は、労働基準法一四条に違反して控訴人に就業日及び休日を明示しなかった。そこで、控訴人が建方作業に従事しなかった日が同法三五条の休日であったのか、それとも休業日であったのかを決することを要するが、ここでは、雑役作業に従事した日のほか、検討の便宜のために土曜日、日曜日及び祝祭日を除外して休業日を検討すると、それは、出勤記録表に「休」と記載された日であり、各月における休業日数は、出勤記録表に記載のとおり、二月が三日間、三月が八日間、四月が四日間、五月が五日間及び六月が九日間の合計二九日であるから、これに控訴人の本件雇用期間中の平均賃金及び労働基準法二六条に定める休業手当の率を乗じると、控訴人の休業手当の額は、合計一八万〇五六二円となる。したがって、被控訴人は、控訴人に対し、労働基準法二六条に基づき、休業手当として右同額の支払義務がある。

(被控訴人の主張)

控訴人が休業日と主張する日は、いずれも雨等の気象状況により建方作業ができない日であった。建方作業の性格上及びその現場の状況に照らし、気象状況により建方作業ができない日は休日とせざるを得ず、本件雇用契約では、右のような場合には休日とすることが合意されていた。

4  割増賃金支払義務の有無及びその金額

(控訴人の主張)

控訴人は、出勤記録表に記載のとおり、いずれも日曜日である一月二五日、三月一日及び四月五日の三日間建方作業に従事したところ、右は休日労働であるから、被控訴人は、労働基準法三七条一項に基づき、休日労働による割増賃金として通常賃金一万五〇〇〇円の三割五分に当たる五二五〇円の三日分合計一万五七五〇円の支払義務がある。

また、控訴人は、出勤記録表に記載のとおり、一月二四日及び同月二五日の二日間建方作業の深夜労働に従事したから、被控訴人は、労働基準法三七条三項に基づき、深夜労働による割増賃金として通常賃金一万五〇〇〇円の二割五分に当たる三七五〇円の二日分合計七五〇〇円の支払義務がある。

(被控訴人の主張)

争う。

5  付加金支払義務の有無及びその金額

6  確認の訴えの適否ないし請求の当否

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  事実関係

事実関係については、次のとおり訂正し、付加し、又は削除するほかは、原判決二三頁八行目から同四〇頁七行目までに記載のとおりであるから、これをここに引用する。

1  原判決二三頁八行目から同二四頁二行目までを次のとおり改める。

「一 事実関係

前記基本的な事実並びに証拠(甲一、三、乙一、二及び三の各1ないし7、四、控訴人、被控訴人代表者)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。」

2  原判決二四頁三行目の「(一)」を「1」と改める。

3  原判決二五頁一〇行目の「(」から「)」までを削り、同一一行目の「(二)」を「2」と、同行目の「被告は」を「右面接当日、被控訴人は、当時被控訴人が請け負っていた池袋の現場で」とそれぞれ改める。

4  原判決二六頁一行目の「梁の上」から同行目の「また」までを「梁の上でしゃがみ込んでしまい、その場をはって移動する始末であり、また、その後の現場においても」と改め、同八行目から同九行目にかけての「判明したので」の次に「(控訴人自身も自己の技量未熟を認識していた。)」を加える。

5  原判決二七頁二行目の「ことにした」から同行目末尾までを「ことにし、その後一か月間、控訴人の仕事ぶりをみたが、技量が向上する様子が一向に認められないと判断されたため、同月下旬ころ、代表者の金澤司が控訴人に対して同年三月以降は見習い建方職人として扱う旨口頭で申し渡した。」と、同三行目の「(三)」を「3」と、同一〇行目の「現場」から同二八頁二行目末尾までを「建築現場の建築会社(元請会社)から、控訴人の技量不足を理由に控訴人分の日当としては見習い建方職人としての日当しか支払えない旨苦情を言われていたため、被控訴人は、控訴人分の日当としては見習い建方職人としての日当しか建築会社に請求することができなかった。」とそれぞれ改める。

6  原判決二八頁三行目から同三七頁一一行目までを次のとおり改める。

「4 本件雇用期間中、控訴人が建築現場で建方作業に従事した日は、基本的な事実4(出勤記録表に地名等を記載し丸印を付した日並びに二月一四日(麻布)及び三月二二日(川越))に記載のとおりである。

5 控訴人は、出社するときは、建方作業がない日でも、午前五時すぎには肩書住所の被控訴人会社に出社し、建方作業がある日は、午前六時には他の建方職人とともに予定された建築現場に向かって出発し、おおむね午後五時にはその日の建方作業の工程を終え、被控訴人会社に帰社していた。しかし、建方作業は、その作業内容から、その日の作業を行うか否かが天候等の気象条件に大きく左右され、また、景気の長期低迷状況から被控訴人の建方作業の受注量が減少し、本件雇用期間中において、建方作業のない日もあった。控訴人は、建方作業がない日には出社したりしなかったりであったが、控訴人が出社しなかった日は、基本的な事実6に記載のとおりであり、出社した日及びそのうち雑役作業に従事した日並びに雑役作業の内容は、基本的な事実5に記載のとおりである。そして、これに対する被控訴人の賃金支払状況は、基本的な事実8に記載のとおりである。」

7  原判決三八頁一行目の「(七)」を「6」と、同行目の「高所での作業中に」を「、草加の建築現場で建方作業に従事中、高所から」と、同五行目の「出社した」から同行目の「あったため、」までを「早朝から出社したが、当日は、建方作業がなかった。そのため、早朝から」と、同七行目の「原告」から同九行目の「について」までを「周囲から控訴人の態度が悪いと聞かされ、また、控訴人の建方作業の仕事ぶりに対する」とそれぞれ改め、同一〇行目の「対し」の次に「、語気荒く、」を加える。

8  原判決三九頁四行目の「同年」から同六行目の「であったが、」までを「、それが六月に入ってより酷くなったと感じていたこともあって、次に予定されていた高田馬場での建方作業が終わり次第被控訴人を退職するつもりでいたが、右飲酒の際、今度はそれまで控訴人にいじめをしたこともない」とそれぞれ改め、同九行目の「原告は」の次に「、その場で、即座に、」を加え、同一〇行目の「金澤敏高」から同四〇頁七行目末尾までを「控訴人は、同月末ころ、被控訴人に対し、内容証明郵便により、未払賃金の支払を求めたことから、控訴人と金澤敏高及び桜井は、八月一九日、被控訴人の取引先の建設会社である工新建築株式会社を間に立てて話し合った結果、被控訴人は、同月二一日、六月分の賃金として前記金額を送金して支払った。

7 被控訴人は、浦和公共職業安定所長に対し、控訴人に係る雇用保険被保険者資格喪失届及び離職証明書を提出し、同公共職業安定所長は、九月二日付けで、控訴人に対し、雇用保険被保険者離職票2(甲一)を交付した。」と改める。

二  建方作業に対する未払賃金について(争点1(一))

1  以上の事実によれば、控訴人は一月二四日鉄骨建方職人として被控訴人に雇用され、一人前の建方職人の技量を有する者として建方作業に対する当初賃金を日給一万五〇〇〇円と合意したものの、雇入れ直後に控訴人の技量未熟が被控訴人により看破され、この控訴人の技量未熟は、控訴人自身も認識していたことであったのみならず、建方作業現場の建築会社(元請会社)からも苦情が出て、建築会社から支払われる控訴人分の日当としては見習い建方職人としての日当しか支払われないほどのものであり、かつ、被控訴人において、その後しばらく控訴人の技量向上の様子をみていたが一向にこれが向上しないため、二月下旬、被控訴人代表者から、控訴人に対し、三月以降は見習い建方職人として扱う旨を告げ、そして、被控訴人は、三月分以降において本件減額支給を実施したが、控訴人は、これに対して特に異議を述べることもなく、被控訴人から支払われる賃金を受領していたことが認められるのであり、右によれば、被控訴人と控訴人は、二月下旬ころ、被控訴人が控訴人に対して建方作業に対する賃金を一人前の建方職人としての金額から見習い建方職人としての金額に減額する旨申し入れ、これに対し、自己の技量不足を認識していた控訴人としても、これをやむを得ないものとして黙示的に承諾し、これにより、本件減額合意が成立したものと推認するのが相当である。したがって、被控訴人のこの点の主張は、理由がある。

2  控訴人は、本件減額支給が金澤敏高及び桜井によりいじめを目的・動機としてされた違法不当なものである旨主張するけれども、桜井は控訴人にとって先輩に当たる建方職人ではあるが、被控訴人の単なる使用人にすぎないし、控訴人が被控訴人を退職した六月二六日の一件はさておき、金澤敏高がそれ以前から控訴人に対していじめをしていたとか、桜井が金澤敏高と共謀していじめをしたと認めることはできないから、控訴人の右主張は失当である。また、控訴人は、本件減額支給が不景気による被控訴人の減収を理由とするものであり違法不当である旨主張する。しかし、不景気の影響を受けて被控訴人における建方作業の受注量が漸減傾向にあったとしても、本件減額支給の経緯は直接的には前記認定のとおりであり、何ら違法不当なものとは認められない。

三  雑役作業に対する未払賃金について(争点1(二))

1  控訴人が雑役作業に従事した日及び雑役作業の内容は、基本的な事実5に記載のとおりである。

ところで、控訴人は、鉄骨組立ての建方職人として被控訴人に雇用された者であり、これら雑役作業は、建方作業それ自体ではないが、控訴人が出社したにもかかわらず建方作業がない日に被控訴人代表者の父で被控訴人の取締役でもある金澤敏高から命じられた被控訴人の本来の業務である建方作業に付随する作業と認められるものであるところ、被控訴人代表者の陳述書(乙四)中には、被控訴人が「家の仕事」と認めた雑役作業については半日分の日当を支払っていた旨の記載があり、基本的な事実8に記載のとおり、三月以降において被控訴人が控訴人の雑役作業に対して一日五〇〇〇円の賃金を支払った例もあること等からすれば、控訴人が建方作業のない日にした雑役作業に対しては建方作業に対する賃金の半日分を賃金として支払う旨の黙示の合意があったものと推認するのが相当である。そして、三月分以降において雑役作業に対して支払われるべき賃金としての建方作業に対する賃金の半日分とは、前記のとおり、二月下旬ころ被控訴人から控訴人に対して建方作業に対する賃金を一人前の建方職人としての金額(一日一万五〇〇〇円)から見習い建方職人としてのそれ(一日一万円)に減額する旨の申入れがされ、黙示的に本件減額合意が成立したものと認められること、被控訴人が三月以降において現実に支払っていた雑役作業に対する賃金の一日五〇〇〇円という額は、見習い建方職人の建方作業に対する賃金一日一万円の半日分に相当すること、控訴人は、雑役作業に対する一日五〇〇〇円の賃金の支払に対して特に異議を述べていないこと(弁論の全趣旨)に照らせば、一日五〇〇〇円であると認めるのが相当である。

2  そうすると、控訴人の雑役作業による賃金は、次のとおり、合計六万円となる。このうち、被控訴人は、合計二万円(三月分及び四月分として各一万円)を支払済みであるから、右既払金を控除すると、残額は四万円となる(なお、原判決は、六月分の建方作業に対する賃金が、作業日数が一一日間であるのに一二日分支給され、一日分一万一〇〇〇円が過払であることを理由にこの金額も雑役作業に対する賃金から控除した。確かに、前記のとおり、六月分として支払われた賃金は、建方作業の従事日数が一一日間であるのに、一三日分が支払われている。一一日分を超える二日分のうち、一日分は、控訴人の五月分賃金として支払うべき賃金が未払であったものを六月分に加えて追加払したものであり、もう一日分は、前記のとおり八月一九日に控訴人と被控訴人間に未払賃金についての話合いが持たれた際に、控訴人の要求も入れて、紛争解決のために、被控訴人において一日分多く支払うこととしたものと推認される上(乙二及び三の各5、弁論の全趣旨)、被控訴人は、紛争解決のために支払った右一日分につき、これが雑役作業に対する未払賃金その他控訴人が本訴で請求する賃金等と相殺勘定となるべきものであることの法律上の主張立証を何らしていないから、右一日分を雑役作業に対する賃金を始めとする賃金等から控除することは許されない。なお、建方作業がない日に出社したが雑役作業に従事したことが認められない場合の休業手当については、出社しなかった日に対する休業手当に対する判断とともに後説する。)。

(一)  三月分 五〇〇〇円×三日=一万五〇〇〇円

(二)  四月分 五〇〇〇円×三日=一万五〇〇〇円

(三)  五月分 五〇〇〇円×四日=二万〇〇〇〇円

(四)  六月分 五〇〇〇円×二日=一万〇〇〇〇円

四  解雇予告手当について(争点2)

控訴人は、被控訴人は六月二六日控訴人を解雇した、そうでないとしても、控訴人を退職させた又は控訴人の退職にはやむを得ない事由があるとして、被控訴人には解雇予告手当の支払義務又は同手当相当額の損害賠償義務がある旨主張する。

しかし、右同日の被控訴人会社における控訴人及び金澤敏高の言動は前記認定のとおりであって、右によれば、右同日、控訴人は、任意に自主退職したものというべきであって、被控訴人が控訴人を解雇したとか、退職を余儀なくさせた等の事実を認めることはできない。控訴人の右主張は、理由がない。

五  割増賃金について(争点4)

1  控訴人は、建方作業に対する賃金に対して休日労働及び深夜労働による割増賃金の支払を求める。割増賃金の割合は、休日労働については、労働基準法三七条一項並びに労働基準法第三十七条一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令(平成六年政令第五号)により、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の三割五分、深夜労働(午後一〇時から午前五時まで)については、同法三七条三項により、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分である。

ところで、本件雇用期間は約五か月に及ぶが、この間、控訴人が日曜日及び祝祭日に出社し、建方作業又は雑役作業に従事したことはほとんどなく、本件雇用契約では日曜日を法定休日とする旨が黙示的に合意されていたこと、控訴人がいずれも日曜日である一月二五日(池袋)、三月一日(法政)及び四月五日(栃木)にそれぞれ建方作業に従事したこと、控訴人が一月二四日及び同月二五日にそれぞれ午後一一時から翌朝午前五時半までの深夜労働に従事したことは、前記のとおりである。

2  そこで、まず、休日労働について検討する。

控訴人が従事した建方作業は、ビルの鉄骨組立作業であり、その能否が天候等の気象条件に大きく左右され、また、一つの建築現場における作業を一定期間に一気に完成させるため、法定休日を使って作業を継続せざるを得ない場合があり得ることは容易にこれを看取することができる。しかしながら、控訴人は、日給月給制で雇用され鉄骨組立作業に従事する者であり、このように労務の内容が特殊なものであっても、労働基準法は、休日労働による割増賃金に関する規定の適用を除外するものではないと解され(三六条一項、三七条一項、二項、四一条)、そして、本件において、右各法定休日の振替えが行われた旨の主張立証は何らないから、被控訴人は、労働基準法三七条一項及び前記政令の規定に基づき、控訴人の右各休日労働に対し、通常の労働日の賃金の計算額の三割五分の割増賃金の支払義務があるというべきである。

したがって、控訴人の休日労働に対する割増賃金の額は、それぞれ、建方作業に対する賃金の三割五分に当たる一月二五日分は五二五〇円(一万五〇〇〇円×三割五分)、三月一日分は四九〇〇円(一万四〇〇〇円×三割五分)、四月五日分は四五五〇円(一万三〇〇〇円×三割五分)で、合計一万四七〇〇円となる。

3  次に、深夜労働について検討する。

控訴人の深夜労働についても、休日労働同様、労働基準法上、割増賃金の規定の適用が除外されるものと解することはできない(三七条三項、四一条)。

ところで、控訴人は、朝五時すぎには被控訴人会社に出社し、午前六時ころには同所を出発して建方作業のある建築現場に向かい、午後五時ころまでには現場での作業を終え、帰社していたのであり(建方作業がなくても出社する日は、朝五時すぎに出社していた。)、少なくとも控訴人が建築現場に向けて被控訴人会社を出発してから帰社するまでの間は被控訴人の指揮命令下に置かれているものと評価することができるから、休憩時間として一時間を与えられていたとしても、被控訴人の労働時間は一日一〇時間を超えることになるし(労働基準法三二条二項)、一週間を通じて労働時間は四〇時間を超えることになる(同条一項)。したがって、被控訴人は、控訴人に対して時間外勤務を命じていたことになる。しかし、建方作業には、作業内容に前記のような特殊性があるばかりでなく、遠方の建築現場にはその都度時間をかけて出向かなければならないし、建築現場における作業の実施は、元請の建築会社の指示に従い、他の多くの関係業者との連携を保ちながらされる必要があるなどの特殊性もあり、その結果、勢い一日一日の労働時間が長時間となることを避けられず、被控訴人における鉄骨建方職人の賃金は、このような特殊事情を考慮して決定されているものと推認され、したがって、控訴人の建方作業に対する賃金には時間外手当(三三条、三六条一項、三七条一項)が含まれていると認める余地がなくはなく、控訴人も、本訴において、時間外手当が未払であるとしてその請求をすることはしていない。しかし、だからといって、このことから、被控訴人に控訴人が従事した深夜労働に対する割増賃金の支払義務がないとすることはできない。すなわち、本件における前記各深夜労働は、被控訴人にとってもまれな事態であったというのであるから(乙四)、控訴人の建方作業に対する賃金に当然に深夜労働に対する割増賃金が含まれていると解することはできないからである。また、被控訴人代表者の供述及び同人作成の陳述書(乙四)には、本件雇用契約締結の際、同人から控訴人に対して残業手当の支払はできない旨を告げておいたとする部分が存し、控訴人も、一月分賃金中に深夜労働に対する割増賃金が含まれていないことについて異議を述べたことはうかがえないから、深夜労働に対する割増賃金を支払わない旨の合意が成立したものと解する余地がないではないが、仮にそうであるとしても、右合意は、労働基準法一三条の趣旨に照らし、無効と解すべきである。

控訴人は、前記のとおり、一月二四日及び同月二五日の両日、いずれも午後一一時から翌朝午前五時半まで労務に従事していたものであり、右のうち各午後一一時から翌朝午前五時までの六時間の労働が労働基準法三七条三項に定める深夜労働に当たり、したがって、被控訴人は、控訴人に対し、同項に基づき、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払うべき義務がある。ところで、本件のような日給制で賃金が支払われる場合における通常の労働時間の賃金について、労働基準法施行規則(昭和二二年厚生省令第二三号)一九条一項二号は、その賃金の金額を一日の労働時間数(日によって所定労働時間が異なる場合には、一週間における一日平均所定労働時間数)で除した金額と規定しており、右の労働時間とは実労働時間(使用者の労務に関する指揮監督下にある時間)を指すところ、控訴人の場合、前記のとおり、一日の実労働時間はおおむね一〇時間を超えていた。そこで、控訴人の一日の実労働時間を一〇時間とみて、右両日における建方作業に対する一日の賃金を右実労働時間で除すると、一時間当たりの賃金は一五〇〇円となり、控訴人の右両日の深夜労働に対する各割増賃金の額は、それぞれ二二五〇円(一五〇〇円×二割五分×六時間)となり、合計四五〇〇円である。

六  休業手当について(争点3)

1  労働基準法二六条は、使用者にその責めに帰すべき休業の場合における休業手当(平均賃金の一〇〇分の六〇以上)の支払を義務付けているから、労働者が就労しない日が法定の休日(三五条)若しくはその振替日又は労使間で合意した法定外休日でなく、当該不就労が使用者の責めに帰すべきものでないと認められない限り、使用者は、労働者に対して休業手当支払義務を負うものと解される。そして、控訴人の従事する建方作業は、ビルの建築現場において鉄骨を組み立てることを労務内容とするものであり、右は、作業実施の能否が天候等の気象条件により大きく左右されるものであり、したがって、時として継続的又は断続的に数日ないし十数日にわたり作業を実施することができない場合が生じることは容易に看取することができるが、労務の内容及びその提供形態がこのように特殊な内容の場合であっても、使用者は、同法二六条に基づく休業手当の支払を免れるものではない。

2  そこで、まず、本件雇用期間中の休日を確定する必要がある。本件雇用契約において、契約締結当初又はその後において、特定の曜日を休日とする旨の合意が明示的にされたことを認めるに足りる証拠はない。しかし、出勤記録表に記載のとおり(ただし、右のほか、二月一四日(麻布)及び三月二二日(川越)を加える。)、控訴人は、本件雇用期間中のほとんどの日曜日及び祝祭日(二月一一日、三月二一日、四月二九日、五月四日及び同月五日)には建方作業及び雑役作業のいずれにも従事しておらず、出社もしていないこと(日曜日及び祝祭日のうち、建方作業に従事したのは一月二五日、三月一日及び四月五日の三日間のみである。)、控訴人に係る被控訴人作成の出勤簿(乙二の1ないし6)にも、そこには「全休」と記載されていること、日曜日のみならず祝祭日も休日とすることは建築業界においても一般的な労使慣行となっているものと考えられること並びに控訴人はこれ以外の平日(土曜日を含む。)勤務がほとんどであること等に照らせば、本件雇用契約では、明示されてはいないが、日曜日を法定休日、祝祭日を法定外休日とする旨が黙示的に合意されていたものと推認するのが相当である。

したがって、日曜日及び祝祭日以外の日において控訴人が休業と主張する日(前記のとおり、出社したが雑役作業に従事したことが認められない日を含む。)において、控訴人が建方作業又は雑役作業に従事しなかったことは、それら各日がいずれも休業であったためであると推認するのが相当であり、これが法定休日の振替日であることについては何ら主張立証がないし、建方作業も雑役作業もない日を休日とする旨の合意があったことを認めるに足りる的確な証拠もない。そして、このうち、四月二日(雪と雨。乙二の4)及び五月一二日(雨。乙二の5)は、被控訴人の業務内容に照らし、その責めに帰すべからざる事由に基づく休業と認められるが、その余の日については、その休業が被控訴人の責めに帰すべからざる事由(労働基準法二六条)に基づくものであることについての主張立証が何らないから、被控訴人は、控訴人に対し、休業手当の支払義務があるものといわざるを得ない。そして、その日数は、二月が三日間、三月が九日間(雑役作業の事実が認められない日一日を含む。以下の括弧内は同趣旨の日数である。)、四月が七日間(四日間)、五月が六日間(二日間)及び六月が一〇日間(一日間)となる。

3  そこで、控訴人の休業手当の額について検討する。

労働基準法一二条は、原則的な平均賃金算定期間をこれを算定すべき事由の発生した日以前の三か月間とし(一項本文)、また、賃金締切日がある場合の三か月の平均賃金算定期間は直前の賃金締切日から起算し(二項)、また、雇入れ後三か月を経過していない労働者の平均賃金算定期間は雇入れ後当該事由の発生した日までとする(六項。なお、当裁判所は、この場合同条二項の適用はないと解する。)旨を定めている。そして、控訴人に対する賃金の支払は、前記のとおり、毎月末締め翌月一五日払の約定であるから、控訴人については毎月末日が賃金締切日であると解される。したがって、前記基本的な事実8に記載の各月の支払賃金合計額(ただし、五月分に未払の建方作業に対する賃金一日分一万一〇〇〇円を加算し、六月分から右同額を控除する。)及び前記五に認定の割増賃金を基に、控訴人の前記休業による休業手当の額を計算すると、別紙四休業手当計算書に記載のとおり、合計二七万六四五六円となる。

七  付加金について(争点5)

被控訴人の控訴人に対する休業手当二七万六四五六円及び割増賃金一万九二〇〇円合計二九万五六五六円は未払であるから、労働基準法一一四条に基づき、被控訴人に対し、右同額の付加金の支払を命じるのが相当である。

八  確認請求について(争点6)

控訴人の前記確認の訴えは不適法である。その理由は、原判決七二頁四行目から同九行目までに記載のとおりであるから、これをここに引用する。

九  まとめ

そうすると、控訴人の本件請求のうち、確認請求については、不適法であるから訴えを却下すべきであり、給付請求については、<1>雑役作業に対する未払賃金四万円、<2>休業手当二七万六四五六円及び<3>割増賃金一万九二〇〇円の合計三三万五六五六円並びに右のうち三月分ないし五月分の雑役作業に対する未払賃金三万円、二月分ないし五月分の休業手当二一万五一八四円及び割増賃金一万九二〇〇円の合計二六万四三八四円に対する本件雇用契約終了の日の翌日である六月二七日から支払済みまで賃金の支払の確保等に関する法律六条一項に基づく年一四・六パーセントの割合による遅延損害金の、六月分の雑役作業に対する未払賃金一万円及び休業手当六万一二七二円の合計七万一二七二円に対する同月分の賃金支払日の翌日である七月一六日から支払済みまで右同割合による遅延損害金の、<4>付加金二九万五六五六円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるから認容すべきであり、その余は理由がないから棄却すべきである。

なお、労働基準法一一四条の付加金の支払義務は、使用者が休業手当等を支払わない場合に当然に発生するものではなく、労働者の請求により裁判所が相当と認めて使用者にその支払を命ずる判決の確定によって初めて発生するものであり、したがって、その支払を命じる判決に仮執行の宣言を付することは許されないから、本件において付加金の支払を命じる部分については仮執行の宣言を付さない。

一〇  よって、当裁判所の右判断と一部異なる原判決は不当であるから、これを変更することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井健吾 裁判官 櫻井登美雄 裁判官 加藤謙一)

別紙一~四<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!